「山─北アルプス─」は、創文社から1967年に刊行されました。北アルプスの山岳風景を描いた5作品が収録されています。
この画集には、畦地梅太郎による次の文章が付されています。
 

「山」によせて
 夜の無気味な山の中でも、外気をさえぎる天幕の布一重は、コンクリートにも増して、鉄の堅さに思われて、天幕の中は城郭の中、安堵の気持でわたしはいられる。たまに、無人の山小屋に泊まったりすると、ネズミに荒らされて閉口する。
 何日も天幕で歩いたあと、無人の小屋へたどりつき、泊まったらその晩、ネズミに鼻っ柱をかじられて痛いめにあったことがある。何日も顔など洗わなかったので、鼻の穴に汚物がたまっていたのである。こんなことは、ずっと昔のわたしの止むを得ずやったことである。
 こん日の北アルプスには、お助け小屋的な山小屋があるかないかは知らん。こん日ある山小屋は、下界のありきたりの旅館など顔負けの堅固で豪壮なものばかり、この画集にはその山小屋を、点景的に取り入れてみた。

燕(別題・頂上の小屋

大変人気のある作品です。実は、畦地梅太郎本人は燕岳には、3回ほどしか登ったことがなかったようです。

大天井

飛騨山脈の大天井岳を描いた作品です。絵の中央に描かれている山小屋が、どの小屋なのかは不明です。

常念

常念岳を描いた作品です。山は、少し不思議な形をしていますが、畦地梅太郎がスケッチを基にして山を描くのではなく、心象としての山の姿を描いたことが分かります。

槍ヶ岳を描いた作品です。ファンの方には、朝焼けの様子を描いているのではとおっしゃる方がいらっしゃいました。「北アルプス」では、山小屋を描くと述べているものの、この作品にのみ山小屋はありませんが、山を囲むように枠が描かれており、山小屋の窓から見た槍ヶ岳を描いた作品とも考えられます。

涸沢(別題・涸沢の小屋)

「燕」と並んで、大変人気のある作品です。小屋の周りにあるのは、花畑のようにも見えますが、テントを描いているようです。